SCRUM MASTER THE BOOK の 著者ズージーさんが書かれた『アジャイルリーダーシップ』はアジャイルな価値観を持った組織、それを育てるリーダーシップが学べる本です。なぜアジャイルな組織が求められているのか、ピラミッド型組織(組織1.0)からどんな進化が起こっているのか、アジャイルリーダに必要なマインドやスキルは何か、目指したい変化とは。ズージーさんが考え続けたアジャイルリーダーシップについて考え方やアイデア、具体的なツールがまとめられています。良い本😍
対象読者の項目に書かれているのですが、スクラムやカンバンなど特定の開発手法は取り上げられていません。アジャイルな開発を学べる本ではありません。あくまで、アジャイルなチームや組織をつくるために必要なマインドやスキルが学べる本です。今のチームや組織の状態を把握する方法、アクションを取る方法について書かれています。
それでは、本書を読んで感じたことや思ったことをまとめていきたいと思います。
モダンアジャイルを思い出し、学びなおしたいと思った
「第2章 リーダーシップは心のありよう」でモダンアジャイルという単語が登場します。モダンアジャイルはAgile2016 の基調講演で披露されたコンセプトです。
モダンアジャイルとは何か?は以下の記事が良さそうです。
Modern Agile JP | an Agile Way
モダンアジャイルを読み解く|さかぱ|note
Modern Agile | Agile Alliance
モダンアジャイルに対するざっくりした理解 - この国では犬が
上記の記事にも書かれているのですが、モダンアジャイルは4つの原則が定義されています。一つ一つの解釈は上記リンクを確認してください。
- 人々を最高に輝かせる
- 安全を必須条件にする
- 高速に実験&学習する
- 継続的に価値を届ける
私は原則の1つ「人々を最高に輝かせる」が特に良いなと思います(一応補足しますが4つ全部大切ですよ)。「人々」を開発チームと捉えると「組織の成功循環モデル」の「関係の質」が想起されますし、「人々」をユーザーと捉えるとユーザー思考を想起します。「人々」を利害関係のあるステークホルダーだと捉えると、ビジネス観点も含まれています。
人々を最高に輝かせるは「社会にとって価値あるものを、最高のチームで作る」と言い換えることができる思います。自チームのことも、社会のことも含まれた良い原則です。
そこにビジョンはあるのか?
「第4章 アジャイルリーダー」ではアジャイルリーダーシップのあり方、スキルが学べます。
この章の導入として以下の一文があります。
リーダーシップとは夢と情熱から始まります。
そう。ビジョンが大切なのです。ビジョンとリーダーシップと聞いて連想するキーワードがあります。
ビジョン型リーダーシップ
ビジョン型リーダーシップは最近、教えて頂いたリーダーシップのタイプです。リーダーシップと言っても様々なリーダーシップがあります。サーバントリーダーシップや民主型リーダーシップなどなど。唯一の優れたリーダーシップがあるわけではなく、リーダーシップを使い分けて発揮できると良いそうです。私はビジョン型リーダーシップが弱いので伸ばしたい。「目指す組織/チームは?そこにたどり着いたらどうなるのでしょうか?何が変わるのでしょうか?」この問いを携えてみようと思います。
参考
リーダーシップの6つの種類 リーダーシップを最大限発揮するためのポイントとは?
「課長」クラスが陥る現場マネジメントの4つの罠と、抜け出すための4つのレンズ | CULTIBASE
GROWモデル
たしか認定スクラムマスター研修で教えてもらったと記憶しているGROWモデル。自己組織化されたアジャイルチームになるためのツールとして学びました(スクラムガイド2020では自己管理型と表現が変わりましたね)。GROWモデルは頭文字に以下の意味があります。
G:Goal(目標)
R:Reality(現状)
O:Options(選択肢)
W:Will(意志)
「ビジョン」と言葉は違いますが「ゴール」が入っています。本書でも、認定スクラムマスター研修でも、ビジョンが大切だと言っており、進みたい方向を示すことは組織をアジャイルにする重要な要素なのでしょう。
ビジョンを持とう。突然、隣の人が質問してきても答えられるぐらい考えよう。ビジョン大事。
やはり、今年はシステムコーチングを探求しよう
本書はシステムコーチングと深く関わっていました。2022年はシステムコーチングの基礎コースを受講したこともあり、ちょうど自分の関心事と一致した部分なのです印象深いです。特に「第5章 アジャイルリーダーシップモデル」はまさにシステムコーチングの章です。
アジャイルリーダーシップモデルのコア要素は「システム」です。
アジャイルリーダーシップモデルは、リーダーが組織を別の視点から見て、システムとのつながりを保ち、次の3つのステップを通じてシステムの潜在能力を引き出すことを手助けします。「気づく」「受け入れる」「アクションを取る」という3つのステップです。
「システム」について少し補足しますと。ここでのシステムとは同じ目的を持った人と人の関係性のことです。プロジェクトメンバーや家族などなど。「システムにアクションする」とは「関係性に対してアクションする」ことです。
「気づく」と「受け入れる」で重要になることは「誰もが正しい、ただし部分的に」でしょう。「誰もが正しい、ただし部分的に」を寓話で表現すると「群盲、象を評す」です。6人の盲人がゾウに触れたとき、足を触った盲人は「柱のよう」耳を触った盲人は「扇のよう」と答えたという話です。これには2つのことを教えてくれます。1つ目は誰もがその人の立場で正しいことを言っているということ、2つ目は全部の意見を集めないと象だと気づけないことです。
一つ一つの意見を評価すると全体が見えない。すべての意見を対等に扱って全体を感じてシステムにアクションを取るのです。ここでのアクションは目の前の課題を解決するようなアクションではなく、その課題の奥にある根源となる部分にアプローチするイメージです。
「第6章 コンピテンシー」では「気づく」「受け入れる」「アクションを取る」で活用できる考え方やツールが具体的に紹介されています。使いこなせるように整理しておきます。
持続可能なペースで改善し続けるんだ
「第8章 アジャイルな組織をつくる」で以下の一文がありました。
実験を繰り返し、頻繁なフィードバックを通じて自分たちなりのやり方を見つけていくのです。この取り組みに終わりはありません。常によりよいやり方が存在するからです。
そうそう、アジャイルはこれこれって共感したフレーズです。第2章でも「アジャイルは適応性」だと書かれています。何かを取り入れていればアジャイルではないのです。常に変わり続ける意志と勇気を持つことがアジャイルなのです。「Don’t just do agile. Be agile.」です。
ふりかえりで何も問題がなくTryが出ないときに感じていた違和感の正体はこれです。常によりよいやり方を見つけようとしているのにTryが出ないことに違和感を感じていたのでしょう。きっと、学びが止まっていたのだと思います。「今の開発を今まで通り進めるには問題はない」と満足していたのでしょう。『アジャイルよもやま話 ~ 川口 恭伸さんとアジャイルの歴史を振り返りながら学ぼう !』のイベントで言われていた「10年後も同じことをするのか?今が変えられないことは分かるけど、3、5、10年後も変わらず同じことをするのか?」という問いが響きます。
2022年ワールドカップで日本がグループリーグを突破したときのインタビューで次のような言葉がありました。
「今日は喜んで明日から切り替えたい」
問題がないことは良いことです。そのこと自体はお祝いをして、「新しい景色」を見るために何が出来るのか考え続けたいですね。