はんなりと、ゆるやかに

アジャイル、スクラムが好きが日々から学んだことをアウトプット

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読みました。第2回 書店員が選ぶノンフィクション大賞2024 大賞に選ばれた書籍です。

本を読みたいと思っているのに……、本を読む時間はあるのに……、本が読めない!!

働いているとあるあるですね。

私も通勤電車で読めるように本は常に持ち歩いているのですが、開くのはスマホゲームが圧倒的に多い。基本的には、ただ荷物を増やして持ち運んでいるだけ。「たまにしか読まない本は置いていこう!」と思うときもあるのですが、「いや、読む!」と意気込んで鞄にしまって、開くのはスマホゲーム。

本書は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』というタイトルですが、本に限定せず「働く以外の好きなこと、大切なこと」ができなくなる理由を深堀していきます。著者の三宅さんの好きなことが「本」だったので書籍のタイトルは『本が読めなくなるのか』になっています。それぞれのやりたいけどできないことに置き換えて読める本です。

目次を見てもらうと分かるのですが、歴史を追いながら「なぜ本が読めなくなるのか」を深堀していきます。

【目次】
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章 労働と読書は両立しない?
第一章 労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
第二章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代
第三章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中
第四章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
第五章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
第六章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
第七章 行動と経済の時代への転換点―1990年代
第八章 仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
第九章 読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終章 「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします

結論は本書を読んでいただければと思いますので、特に気になった部分を引用しながら本書の魅力と自分の考えをまとめてみたい思います。

ノイズを取り入れる余裕を持つ

本書では知りたいと思っていないことをノイズと定義しています。例えば、掃除機を買い替えたいと思っているとき、掃除機の誕生秘話はノイズになります。そして、働いて余裕(時間よりも心の余裕)がなくなればなくなるほど、ノイズを取り入れられないと言っています。

インターネットやゲームなどは得たい情報だけを得やすい手段なのでノイズが少ない。読書は知りたいこと以外の情報も得られるのでノイズが多いということです。

気持ちがわかります。余裕がないと本は読めないです。読みたいはずなのに疲れるんですよね。忙しければ忙しいほど、ダラダラしてしまいます。そういう時ほど、知らぬ間にショート動画を見続けてたりします。そして、この時間で本読めたのでは……と後悔します。

スマホを操作するハードルの低さ

本書では触れられてなかったと思うのですが、スマホは実行するまでのハードルの低さも影響があると思いました。

例えば、ランニングしようと思うと様々なハードルを乗り越える必要があります。
「外の気温が暑い/寒い」+「着替えが必要」+「1時間ぐらいはかかる」+「疲れそう」+「汗をかく」
それらをやっと乗り越えて走り始めると恩恵があります。
「体力がつく」+「気持ちいい」

ハードルと恩恵を比較したときに恩恵が上回ったときに走れます。

「外の気温が暑い/寒い」+「着替えが必要」+「1時間ぐらいはかかる」+「疲れそう」+「汗をかく」 < 「体力がつく」+「気持ちいい」

スマホはどうでしょう。ハードルは正直ありません。だいたい手元にありますし、その場で出来るし、屋内なら気温も適温だし、隙間時間で使えます。
恩恵も自分の得たいと思っている情報がダイレクトに得られます。
「知りたいことが知れる」、「欲しいもの手に入る」

ハードルと恩恵を比較したとき、ハードルが無いので常に恩恵が上回ります。そりゃ、スマホ触ります。

そして、スマホを触ると知らぬ間にショート動画を見ているのです……。不思議な魔力。

労働で自己実現を果たす時代

その言葉の意味を想像してみてほしい。すると、なぜか「仕事で自分の人生を満足させる様子」を思い浮かべてしまうのではないだろうか。

私たちは時間を奪い合われている。~中略~会社は労働者に対して「仕事に24時間費やしてほしいと」思うものだし、家庭は配偶者に対して「育児や家事や介護に」24時間費やしてほしいと」思うものだし、ゲーム会社は消費者に対して「ゲームに24時間費やしてほしいと」思うものだし、~

「開発について詳しくなりたいから、開発に関する勉強がしたい」と思うのですが、これは仕事で自己実現しようとしている行為ですし、仕事に24時間費やす行為でもありますね。本書は今の文化(資本主義)がその考えを後押ししていると言っています。少なくとも、1日中仕事している人と1日中遊んでいる人がいたときに、社会的に認められるのは前者です。

仕事に直結して役立つかどうか?という考えになり、役立たないモノはノイズとなります。

目的達成に関係ないことがノイズ

また本書から逸れていくのですが、
役立つとは、(自分を含めた)誰かの目的達成を便利にすることです。生活を便利にしたり、業務効率が上がったり、何かがうまくなったり。

役立たないモノがノイズ。ノイズを取り入れるとは、目的達成に関係ない情報を取り入れると言い換えられそうです。

そう思うと新聞はノイズだらけ。政治の話があれば、スポーツの話もあり、エッセイもある。ノイズに触れる機会を増やせるよいメディアですね。

最後に

甘さを強めるために塩を少しいれるように、自分が欲しいこと以外のコトを取り入れた生活も良いかもな。と思えた書籍でした。
本書では、働いているとそれができなくなることと、解決方法を提案しています。

個人的にはノイズを取り入れるハードルを下げて、毎日ちょっとずつ取り入れられたらなぁと思いました。

あと、本書で何度も引用される『花束みたいな恋をした』という映画も気になりました。