「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」という本を読みました。
www.shinchosha.co.jpどんな本か
著者(日本人の母親)と配偶者(アイルランド人の父親)の息子が過ごしたイギリスでの中学生活を著者目線で綴ったエッセイです。
差別や格差で複雑化したトリッキーな友人関係について相談されるたび、わたしは彼の悩みについて何の答えも持っていないことに気づかされるのだった。
と書かれてあるように、様々な問題が起こるたびに息子と著者が対話し、考え、問題にぶつかっていく話です。ヘビーで難しい問題ですが、ライトで読みやすい文章が心地よい。心あたたまる気持ちになります。
心に響いたエピソードを紹介していきます。
楽ばかりしてると無知になるから
国籍や民族性の違いによる衝突。その間に挟まれた息子と著者が話した一文です。
「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」
「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ。」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばかりしてると無知になるから」4 スクール・ポリティクス
多様性は良いことだと語られることが多いと思います。多様性が認められていると働きやすい環境になりますし、多様な意見を組み合わせてイノベーションも起こりやすい。と言われています。同意です。多様性は良いものなのです。
しかし、多様性を認めるということは、「多様性を認めない人」も認めるという矛盾が起こります。寛容のパラドックスと呼ばれます。多様性を認めない人が同じチームにいると多様性のバランスが崩れるかもしれません。
難しい問題だーと思っていましたが、紹介したエピソードから、私の中に一つの答えが見つかりました。
多様性を「働きやすさ」とか「イノベーション」のためだと捉えていると、寛容のパラドックスで悩むのです。それはチームや集団に多様性を求めるからです。
そうではなくて、「私は多様性を大切にする」で留めるのが良いのだと思いました。多様性は働きやすさやイノベーションのためでなく、「無知にならないため」「知らないことに好奇心を持つこと」「自分にとって都合の悪いことを認めること」だと思いました。
その結果、働きやすくなるかも、イノベーションが起こるかもしれませんが、副次的な効果です。
知らないことを受け止める。違うことを受け止める。
それが多様性かもなと考えたエピソードでした。
でも、決めつけないでいろんな考え方をしてみることが大事なんだって。
著者と息子が街を歩いているとき、街の人がニヤニヤしながら「ニーハオ、ニーハオ」と声をかけられたエピソードです。
その場はやり過ごし、著者と息子が会話をします。友達と歩いているときには言われたことがないと言い、その理由を分析し、2つの考えがあると言います。
①友達といる時は東洋人に見えない。②ガタイの良い友達がいるから言われない。
そして、実は3つ目があるのではないかと言います。
③中国人だと勘違いし、フレンドリーに接するために『ニーハオ』と言った。
実際親しみを込めたニーハオではなかったので③ではないと思うと言いつつ、次の言葉です。
でも、決めつけないでいろんな考え方をしてみることが大事なんだって。シティズンシップ・エデュケーションの先生が言ってた。それがエンパシーへの第一歩だって
8 クールなのかジャパン
違う章ですが、エンパシーとシンパシーについて書かれています。筆記試験でエンパシーについて問われ息子は「自分で誰かの靴を履いてみること」と書きました。「自分で誰かの靴を履いてみること」は英語の定型表現で他人の立場に立つことだそうです。
他人の立場に立つことはコミュニケーションにおいて大切ですよね。好きな本「他者と働く」に近い感覚がありました。
iucstscui.hatenablog.com
エンパシーは「他人の感情や経験などを理解する能力」。スキルとして身につけられるということです。「他者と働く」はそのスキルが書かれていました。
多様性と似た話になってきますが、どんなに親しくても人と人の価値観は違います。相手のことをすべて「わかっている」はないのです。「わかりあえなさ」はなくならないのです。そこがコミュニケーションのスタート地点で、「相手を分かろうとすること」これが本当に大事だと思います。
「自分で誰かの靴を履いてみること」この表現に直接書かれていませんが、誰かの靴を履くためには、自分の靴を脱がなければいけません。靴は価値観のメタファだとすると、自分の価値観は置いておき、相手の価値観で考えるのです。お互いがお互いの価値観を理解しようとしながらコミュニケーションを取りたいですね。
試し読みとしてこの章が公開されています。良ければ読んでみてください。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 特設サイト | 新潮社
あわせて、「自分で誰かの靴を履いてみること」が書かれた5章も公開されています。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 特設サイト | 新潮社
さいごに
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の帯に「読んだら誰かと話したくなる」と書かれていた通り、身近な人と話したくなりました。多国籍の環境で過ごさなかった僕としては新しいことばかりの本でした。
ひとつひとつのエピソードもとても良いのです。さらに全体とおして、息子の柔軟な考えた方がやさしさと強さを感じて響くことが多かったです。キャッチコピーにもある「大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽く飛び越えていく。」のとおりでした。
わたしも、柔軟にやさしく、強く、過ごしていけたらなーと思えた本でした。